会社は、社内の秩序やルールを守るため「懲戒処分」の内容を「就業規則」に定めているケースが多いと思います。
よくある懲戒事由としては
正当な理由なく無断欠勤や早退遅刻が続くとき
過失により会社に損害を与えたとき
素行不良で社内の秩序や風紀を乱したとき
などが挙げられますが、パワハラを行なったときも懲戒事由になります。
懲戒処分を行うには就業規則に詳細を定めておく必要があり、
◯被害者の精神的肉体的苦痛の程度
◯加害者の反省の程度
◯加害者への注意指導の有無
などを考慮して最終的な懲戒内容を判断することになります。
その際にどのくらいの量刑が妥当なのか裁判でも判断が分かれています。
今回は懲戒処分を「有効とした裁判例」と「無効とした裁判例」をみてみたいと思います。
公務員も確認しておくべき、懲戒処分の有効・無効の事例
懲戒処分を有効とした裁判例
<事例1>
会社は、パワハラについて指導啓発を継続して行い、ハラスメントのない職場づくりを経営上の指針であることを明確にしていたにも関わらず、幹部としての地位で、部下である従業員等に対して長期間かつ継続的に能力等を否定し、退職を強要し、これを執拗に迫ったことにつき降格処分を有効とした
(M社事件 東京地判 平成27年8月7日 労経速2263号3頁 )
<事例2>
部下4名に対し「お前はアホか」と言ったり「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなどした行為により、前にもハラスメント行為で会社から厳重注意処分を受け、今後同様の行為を行った場合には厳しい処分となることの警告を受けたにも関わらず、同行為を行ったことにつき、被害者の従業員が適応障害となったことなども考慮し、懲戒解雇を有効とした
(Y社事件 東京地判 平成28年11月16日 労経速2299号12頁)
懲戒処分を無効とした裁判例
机を叩きながら仕事が遅いこと及び業績がない事実を繰り返し指摘して叱責し、結婚の予定などの私的な事項に関する質問をし、さらには研究者としては大学院生以下であるなどと述べ、4時間近くにわたり説教をしたりしたことなどにつき、内容および回数が限定的であること、過去に処分歴はなく、 非違行為の一部を認め、反省の意思を有していることなどを考慮し、懲戒解雇を無効とした
(国立大学法人群馬大学事件 前橋地判 平成29年10月4日 労判1175号71頁)
※上記裁判事例は(ビジネスガイド2019年1月号)より引用
この裁判事例を読んでどう思われましたでしょうか?
「全て懲戒解雇に該当するのではないか」と思われた方も多いのではないかと思います。
ですが、実際の裁判となるとそうした判断とはならないケースが多いです。
懲戒解雇とは簡単に言えばクビであり、会社のペナルティの中でも最も重いものです。
そのため、本人にとっても収入が途絶え、大きな不利益になるため、裁判所も慎重な判断にならざるを得ないようです。
パワハラ被害者からすれば、到底納得の出来ない処分内容かもしれませんが、こうした裁判事例を知っておくと、今後裁判を起こすかどうかの参考になります。
懲戒処分の基準
パワハラ防止法が、2020年6月(中小企業は2022年4月)に施行されることにより、会社はパワハラを行った場合の処分内容を就業規則に定めていくことになります。
一般的には戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などと定めていることが多いと思います。
パワハラの内容によってどの処分を下すかを会社が判定していかなければなりませんが、その時に参考になるのが人事院(国家公務員の人事労務管理機関)が公表している懲戒処分の指針です。
指針を見ると次のように判断要素を定めています。
人事院の懲戒指針
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本指針は、代表的な事例を選び、それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げたものである。
具体的な処分量定の決定に当たっては、
① 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか
② 故意又は過失の度合いはどの程度であったか
③ 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか
その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか
④ 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか
⑤ 過去に非違行為を行っているか
等のほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上判断するものとする。
非違行為・・・違法行為のこと
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今後、各会社は、このような指針を参考にして懲戒処分内容を決めていくものと予想されます。
指針の中には、例として、セクシャル・ハラスメントの処分内容が記載されています。
セクシャル・ハラスメント |
免職 | 停職 | 減給 | 戒告 |
強制わいせつ、上司等の影響力利用による性的関係・わいせつな行為 |
◯ | ◯ | ||
意に反することを認識の上での性的な言動の繰り返し |
◯ | ◯ | ||
執拗な繰り返しにより強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患 |
◯ | ◯ | ||
意に反することを認識の上での性的な言動 |
◯ | ◯ |
指針の詳しい内容は、人事院のホームページをご覧ください。
指針の中に「パワハラ」についての記載がありませんが、2020年6月のパワハラ防止法施行に合わせて、次の内容を盛り込む予定になっています。
著しい精神的身体的苦痛を与えた場合は停職や減給戒告
注意を受けたのに行為を繰り返した場合には停職や減給
相手を強いストレスで精神疾患に追い込んだ場合には免職や減給
さらに、厚労省が運営しているハラスメント対策情報サイト「明るい職場応援団」には、パワハラ禁止規定と懲戒規定と連動させた就業規則の事例】をのせていますから、今後参考にする企業も多いと思われます。
まとめ
パワハラを受けている被害者からすると、加害者を懲戒処分にしてほしいと思うのではないでしょうか。
懲戒処分を行ううえで根拠となるのは就業規則ですから、会社の就業規則の内容は必ず読んでください。そして、どこかの条文を適用してパワハラ上司に対抗できないかチェックしてみてください。
パワハラ上司にとっては、何かしらの懲戒処分を受けることで、昇進の道が絶たれることになりますから、おおきな脅威だと思います。
パワハラ上司に対してどの程度の処分を望むのかにもよりますが、今回お伝えした裁判や懲戒内容の事例を知っておくことは、今後の対策を考える上でも大切です。