パワハラと言うと上司から部下に対するものをイメージしますが、部下から上司に対する場合もパワハラに該当することはあります 。

上司と部下の関係であれば、一般的には上司の方が職場内において優越的な立場にあると言えます。

でも上司と部下という関係の中でも、必ずしも上司が優越的な立場にあるとは言えないこともあります。

今回はどのような場合に部下から上司へのパワハラと認定されるのかについてお伝えしていきたいと思います。

部下から上司へのパワハラ裁判例

部下から上司へのパワハラについては、「京都地判平成27年12月18日」の裁判が参考になります。

この裁判では医療福祉センターで医療費の請求事務などに従事していたA氏が、

職場の部下からのいじめや嫌がらせ行為などにより、うつ病に罹患したと主張して役所に対して労災保険の請求をしたところ

役所がうつ病の発病前6ヶ月間を超える期間において業務に強い心理的負荷が認められないため、業務とは関係がないとして労災保険の給付をしない処分を決定しました。

A氏は、 この処分は違法であると主張してその取り消しを求めました。

A氏は、 以前から手が震えて字がスムーズに書けない病状を持っていたのですが、裁判の判決では部下から事務の引継ぎを受ける際に「字が読みづらいことや表計算ソフトをなかなか習得できないこと」について、部下から次のような厳しい言葉をかけられていたと認定されています。

 

・字を他の人にも読めるように書いてください。ペン習字でも習って

 

 もらわないといけない。

 

 

・時間がかかりすぎです。この表の作成に1日もかかりませんよ。

 

 

・勉強してください。わからなかったら娘さんにでも教えてもらって


 ください。

 

 

・日本語わかっていますか

 

上司が病気で字をうまく書けないことを分かっていて、このような言葉をかけるのですから酷いものです。

さらに上司と部下の関係ではあるものの、A氏は部下の業務を監督管理したり勤務評価する立場にはなく、A氏を軽く扱う雰囲気が職場内で醸成されていたとも認定されています。

そのうえで、部下からA氏への業務の引継ぎにおける言動を総合的に考慮して

業務上の心理的な負荷は「社会通念上、客観的にみて、うつ病に罹患する恐れがあるほど強いものであった」とされ労災と認められています。

この裁判例のように上司と部下の関係であっても、部下が優越な立場になることもあるのです。

部下から上司へのパワハラと認定される要素

上記の裁判例から考えると

①上司の業務上の経験や適正の有無

②上司の部下に対する監督権限の有無

③部下の不適切な行動を容認するような状況

といった要素を元にして、部下から上司に対して優越的な関係を背景とした言動と言えるかどうかが判断されることになります。

厚労省指針「優越的な関係を背景とした言動」とは

優越的な関係とはどのようなものか、先ほどは裁判例をみてきましたが厚労省の指針を振り返ってみます。

職場におけるにおけるパワーハラスメントとは

 

 

①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって

 

 

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

 

 

③労働者の就業環境が害されるものであり

 

 

 

①から③までの要素をすべて満たす者をいいます。

 

このうち

「①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」とは次のように示されています。

業務を遂行するにあたって当該言動を受ける労働者が、行為者とされる

 

ものに対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景

 

として行われるものを指します。

蓋然性とは
・・ある物事や事象が実現するか否か、または知識が確実かどうかの度合い

つまりは

「抵抗や拒絶することが困難な場合」に優越的な関係であると認められることになります。

これはかなり限定的な表現ですよね。

指針ではこのように限定的な定めをしてしまったため、パワハラに該当する言動が狭められ被害者を救済する際に支障がでる恐れがあります。

例えば

部下からパワハラをされて会社に訴えたとき、会社から「あなたは部下に対して抵抗や拒絶することのできる立場にいたのでパワハラではない」と言われ、うやむやにされることがあるかもしれません。

でも、パワハラはあくまで個別の事案に対して、被害者が受ける身体的、肉体的な苦痛の程度を等を総合的に考慮して判断することになりますから

「抵抗や拒絶することのできる立場にいた」 = 「部下からの言動がパワハラにならない」 

ということではありません。

今回の厚労省の指針は、なるべくパワハラに該当しないように定めている印象を持ちますので、もっと被害者が有利になるよう改善していくべきだと思います。

まとめ

パワハラは上司から部下だけでなく、部下から上司の場合も対象になることを裁判例を通してみてきました。

上司だから「部下からパワハラを受けているなんて恥ずかしくて言えない」とか 「我慢すればいつか終わる」という思いがあるかもしれません。

でもそれを放っておくとあなたのストレスがどんどん大きくなり、取り返しのつかないことになってしまうかもしれません。

そうなる前に行動を起こしましょう。

パワハラ防止法には、パワハラを行った者について、 厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等の文書に規定し社員に周知啓発することを会社に求めています。

これからパワハラ対策に力を入れていく企業も多くなっていくと思いますので、あなたも会社の動きには注視してください。

そして、ストレスは1人で抱えていては絶対にダメです。早めに誰かに相談してください。

家族、友人、知人など、あなたの話を真剣に聞いてくれる人が必ずいるはずです。

まずはその人達に相談してみてください。必ず味方になってくれると思います。