新型コロナウイルスの影響による会社業績悪化のニュースが目立つようになってきました。
2019年には黒字リストラが多かったのですが、一転して旧来型の赤字リストラが増加していきそうな勢いです。業績が赤字の会社は人件費が重くのしかかってくるので、解雇や退職勧奨などに走りがちです。
先日もあるスーパーで副店長をしている人からこんな相談を受けました。
「上司である店長から退職勧奨を受けて悩んでいるが、これはパワハラになるのでしょうか?」
結論から言うと退職勧奨自体は法律違反ではありません。ただそのやり方や言動によっては法律違反となり、パワハラに該当することもあります。
今回は、パワハラを伴う退職勧奨のケースとその対処法についてお伝えしていきます。
退職勧奨とは
退職勧奨とは「会社が社員に対して退職するように働きかけること」を言います。
この働きかけに社員が応じれば退職することになりますが、退職したくなければ退職に応じなければよいだけの話なので、基本的に退職勧奨は自由に行うことができます。
「退職勧奨」と聞くと法律違反の行為のような印象を持たれるかもしれないですがそうではありません。退職勧奨に関する具体的な法律条文もあるわけではないので、有効性については、結局裁判で白黒つけることになります。
つまり退職勧奨が有効か無効かというのはとてもグレーゾーンの分野なんです。
ですがこれまでの裁判事例を見てみると、違法な退職勧奨と判断された場合は慰謝料が発生したり退職そのものの効力が否定されたりしています。
なぜ退職勧奨の時にパワハラをしてしまうのか
会社が社員に辞めてほしいとき、先ほど説明した退職勧奨や解雇といった方法を取ります。
ただ解雇の場合は、法律でかなり厳しい規制が設けられているので簡単には認めてもらえませんし、解雇の有効性を争う裁判でも会社側が敗訴することが多くなっています。
だから会社としては解雇を避けて退職勧奨で社員を辞めさせたいのです。
退職勧奨であれば社員が同意さえしてくれれば、それで辞めてもらうことができますし法的にも問題ありません。
だから会社は、なんとか社員の同意を取りつけようと、大声で怒鳴る、恫喝するなど不適切な行動や言動に走りがちになるのです。
パワハラになる退職勧奨の具体例
ここでパワハラの定義を振り返ってみると、厚生労働省の指針では次のように定められています。
職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境が害されるものであること
退職勧奨をすることは、③の就業環境を害することになります。
例えば
こうした発言は、労働環境を害することになりますからパワハラに該当する可能性が高くなります。
会社によっては「退職しろ」とは一切言わず「あなたにしてもらう仕事はこの会社にはなくなった」としか言わないケースもあるかもしれません。
このようなケースでも暗に退職を促すような内容であり、繰り返し迫ってくる場合もパワハラに該当することがあります。
パワハラを伴う退職勧奨の裁判事例
ここで実際の裁判例を見てみましょう。
裁判事例1
典型的な事例として「全日本航空事件 大阪高裁平成13年3月14日判決」があります。
これは退職勧奨の面談で、面談者が次のような発言をしています。
・寄生虫みたいだ
・他の CA に迷惑だ
・社員として失格
・新入社員以下のレベル
このような侮辱的な発言だけでなく、大声を出して机をたたくなど暴力的なことも行われていました。
このような面談が、4ヶ月間、30数回にもわたって行われ、1回の面談時間が8時間となることもあったため、こうした行為が行き過ぎたものであると裁判で判定され、慰謝料として80万円が認定されています。
裁判事例2
他にも「下関商業高校事件 最高裁昭和55年7月10日判決」では
退職勧奨に応じないことを表明しているにもかかわらず、高校教師らに対し3~5ヶ月の間、1回あたり20分から2時間の退職勧奨を、多数回(11~13回)行ったことが違法とされました。
高校教師らが退職勧奨には応じないという意思表明をしているにも関わらず、必要に退職を迫ったことが問題とされています。
このような裁判例からみると
退職勧奨のために「相手を侮辱するような言動を行い精神的に追い詰めたり」、「何度も退職を促すような面談を行う」ことなどを総合的に配慮して、退職勧奨の違法性を判断をしていると思われます。
パワハラを伴う退職勧奨への対処方法
明確に断る
退職勧奨を受けた時に仕事を辞めるつもりがないのであれば、きっぱりと退職勧奨に応じる意思がないことを伝えましょう。
退職勧奨に応じない意思を表明したあとに何度も退職勧奨してくることは違法となる可能性が高くなりますから、退職しない意思を明確に表明しておくことが大切です。
会社側に意思を伝えた証拠を残しておくため、意思表示した時の会話を録音したり、録音できないのであればメモを取っておくなどしてください。
会社側からの注意指導内容を明確にする
一般的に退職勧奨をする会社は、はじめに社員に対して問題点の注意や指導を行い、その努力に効果が認められない場合に退職勧奨を迫ってきます。
その問題点の注意や指導の内容が抽象的な場合は、具体的に何を改善すればいいのかわかりませんから確認するようにしてください。ただ追い詰めるためになんの根拠もなく注意や指導してくる場合もあるからです。
そして改善できた場合は、いつ・どのような改善が出来たのかを会社に報告するようにしましょう。
指導や注意に対して誠実に対応している証拠を残しておくことで、会社が退職勧奨する理由を潰すことができます。
ただし、会社の注意や指導が適切な場合もありますから、そのときは反省し素直に改善していくようにしましょう。
早めに社内外の窓口に相談する
上司から退職勧奨を受けた場合、まずは社内窓口に相談してみてください。
その場合、上司の勝手な判断で退職勧奨してくるのであれば窓口へ相談する意味はあるのですが、もしその上司と会社の総務部や人事部とがつながっていて退職勧奨してくるのであれば相談してもあまり意味がないかもしれません。
社内窓口は総務部や人事部などが管轄していることもあるので、その意向を受けて上司が動いている可能性もあるからです。
そのような場合は、社内ではなく、社外の窓口に相談するようにしましょう。
社外窓口には、都道府県の労働局が設けている「総合労働相談コーナー」などがあります。
まとめ
一般的に退職勧奨は、社員に対して何度も注意や指導をした上でそれに従わない場合に行われるケースが多いです。
退職勧奨を何回以上受けたらパワハラとなるのか具体的な定めがあるわけではありませんが、 侮辱するような言動を行い精神的に追い詰めたり、何度も退職を促すような面談を行うときは、就業環境を害しているといえますからパワハラに該当する可能性が高くなります。
パワハラを伴うような退職勧奨をしてきたとき、会社に残るつもりなのであれば、きっぱりと「退職しない」ことを会社に伝えてください。
「退職しない」ことを伝えたあとの退職勧奨は違法となるケースが多いので、まず「はっきり断ること」が重要です。そして、伝えたことがわかる記録(録音など)を取るようにしてください。
これから景気が悪くなると解雇や退職勧奨する会社が増えていくと予想されています。
退職勧奨は能力の有無だけじゃなく、給与が高い人や社員数の多い世代などがターゲットにされることもあります。
仮にパワハラを伴う退職勧奨を受けたとしても、次の会社への転職や独立することができるようにするため、日頃から自分のキャリアを高め、スキルを磨いておくことも重要になります。