パワハラの相談件数が増加傾向にある中で、会社側も社内研修などを行なうようになりましたが、どこまでがパワハラなのか、その境界線がわからないというご質問がよくあります。
今回は、その判断基準についてみていきましょう。
判断基準のポイント
被害者の方からも、「私のケースは、法的にもパワハラになるのでしょうか」という質問もいただくのですが、結論としては、個別の案件ごとに判断していくしかありません。
パワハラについては、労働施策推進法において、
①優越的な関係を背景にして
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③労働者の就業環境を害するものである
この3つの要素をすべて満たすものをいうと定義しています。
今回は、②をポイントとしてみていきます。
これは、言い換えれば、
「業務の適正な範囲を超えた」指導なのかどうかが判断基準になります。
業務の適正な範囲をもう少し具体的にしてみると
部下に対する仕事のさせ方が、
妥当な内容・手段である。
一般的にみてまともである。
かどうかということです。
ですが、妥当・まともかどうかの捉え方は、個人個人で異なるため、どうしてもズレが出てきます。
例として
「ある上司が、部下のミスに対して、大声で叱った」とします。
そのとき、この上司は、こんなふうに思っているのかもしれません。
「自分が若いとき、上司や先輩から大声で叱咤激励されてきたけれど、それをバネにして頑張ってきた。だから自分の部下にも同じようにしていくことは妥当な指導だ」
一方で、部下にしてみれば、
「こんな大きな声で怒られて恐怖を感じ、意欲がうせる。こんな指導はまともではなくパワハラだ」と感じているかもしれません。
このようなズレは、それぞれの認識、価値観の違いともいえ、これがパワハラ問題の根本だと思います。
そのため、パワハラ問題は、発生した時点では、白黒の答えが決まっているわけではありません。
ですが、客観的に見て、厚労省が発表している6類型に該当しているのであれば、違法性があると認定される可能性が高いです。
パワハラ6類型
①暴行などの「身体的攻撃」
②暴言などの「精神的攻撃」
③無視などの「人間関係からの引き離し」
④実行不可能な仕事への強制などの「過大な要求」
⑤能力とかけ離れた難易度の低い仕事を命じるなどの「過小な要求」
⑥私的なことに立ち入る「個の侵害」
大声で怒られて、被害を受けたと感じた場合でも、すぐに「これはパワハラだ」と判断するのではなく、その状況をまずは客観的に見て、パワハラに該当するかどうかを自己チェックしてみましょう。
人格や名誉を毀損する言葉の有無
相手から「ばか」「のろま」などの暴言、「やめてしまえ」などの社員としての地位を脅かす言葉などがないか
「おまえは小学生並みだな」「無能」などの侮辱、名誉棄損にあたる言葉などがないか
大声で威圧的な叱責を繰り返して行っていないか
身体に対する暴力の有無
相手から、殴打、足蹴り、物をぶつけられるなどがないか
業務上、指導の必要性の有無
自分自身が、約束したことを守らない、遅刻が多い、社内のルールを守らないなど、社会的ルールを欠いた言動をしていないか
性質上ミスの許されない業務の有無
自分自身が、医療に関わる業務、インフラ業務(飛行機、電車等の整備など)などに携わり、重大な問題行動をしていないか
などを客観的に見てみましょう。
友人、知人に、自分のパワハラ状況を伝えて、どのように感じるかを聞いてみるのもひとつの方法です。
そして、相手の行動が問題であると判断した場合は、社内窓口へ相談しましょう。
パワハラ状況を客観的にみることができていれば、感情的にならず、窓口担当者にもスムースに説明できると思います。
まとめ
セクハラは、そもそも業務とは関連しない行為なので、違法性は判断しやすいといえますが、パワハラは業務上の必要性があるかないかの判断が難しく、違法性の判断に迷うケースが多いです。
被害者としては、パワハラと感じて苦しんでいるのですから、今すぐにでも上司や会社を訴えてやりたいと思うのは当然です。
ですが、訴える前に、その行為がパワハラに該当するのかどうかを見極めておくことは大切です。
もし、客観的にみて、パワハラ行為に該当しないのであれば、会社側としては、訴えてくる社員を、問題社員としてレッテルを貼るかもしれません。
そうならないためにも、客観的な視点が必要です。
とくに、自己肯定感(自分をかけがえのない存在と思えること)が落ちているときには、自信がなくなり、はっきりとした意思表示もできなくなります。
そうすると被害者意識が生まれてきて、上司からの言葉一つ一つが、パワハラに感じてきてしまい、さらにネガティブなループに陥ってしまいます。
もしかしたら、自分で自分を追い込んでいることに気づかす、つらいのはすべて上司のせいだと思いこむことで、自分を防御している可能性もあります。
こうしたマイナスのループに陥らないためにも、自分を客観的、俯瞰的に見ることも取り入れて、パワハラからの悩みを解消していきましょう。