パワハラは、許されない行為ですが、実際のところ、どのような罪になるのだろうかと思ったことはありませんか。

パワハラ防止法が成立しましたが、あくまで防止に関することであり、直接規制する法律ではありません。

パワハラが、どのような犯罪になりうるのかを知っておくことは、パワハラ行為者へ対抗するうえでも重要です。

そして、どのような判例があるのかも含めて、一緒に見ていきましょう。

パワハラの類型

厚労省が示すパワハラの類型は、次の6つです。

身体的な攻撃

蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えるパワハラ

精神的な攻撃

侮辱、暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ

人間関係からの切り離し

仲間外れや無視など個人を疎外するパワハラ

過大な要求

遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ

過小な要求

本来の仕事を取り上げるパワハラ

個の侵害

個人のプライバシーを侵害するパワハラ

このうち、

「身体的な攻撃」については、傷害罪や暴行罪

「精神的な攻撃」については脅迫罪、強要罪、名誉棄損罪、侮辱罪

の成立が考えられます。

これらの犯罪内容を詳しく見ていきましょう。
(裁判例は、「Q&Aハラスメントをめぐる諸問題」から引用)

暴行罪

暴行罪とは、人の身体に暴行を加えることによって成立する犯罪をいいます。

裁判では、

カラオケで歌っている部下の両ももを両腕で抱えて持ち上げた行為(福岡地判平成27年12月22日)

先輩が椅子を足蹴にして後輩の右足に当てたほか、後輩の胸ぐらをつかんで前後に揺さぶる行為(大阪地判平成24年5月25日)

などを、暴行罪とした事例があります。

傷害罪

傷害罪とは、誰かを殴ったり蹴ったりして怪我を負わせた場合に成立する犯罪をいいます。

裁判では、

高校の教諭が、生徒の顔面および頭部を平手で十数回殴打し、直後にも顔面を殴打する暴行を加え、生徒に全治約3週間の傷害を負わせた行為(東京地判平成28年2月24日)

などを傷害罪とした事例があります。

脅迫罪

脅迫罪は、生命、身体、自由、名誉、財産に対して害を与えることを告知して、人を脅迫した場合に成立する犯罪をいいます。

裁判では、

上司が深夜、部下に対して2度も「ぶっ殺すぞ」と言葉を発し、退職を強要した行為(東京地判平成24年3月9日)

などを脅迫罪とした事例があります。

強要罪

生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し、害を加える旨を告知して、人を脅迫し又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合に成立する犯罪をいいます。

裁判では、

大学職員が、上司に対して「わび入れろや」などと怒号し、「土下座せい、頭、足蹴にしたろうか」などと大声で叫んで、上司を恫喝し、複数回土下座させ、室内から出ることを困難にさせた行為(神戸地判平成29年8月9日)

などを強要罪とした事例があります。

名誉棄損罪

名誉棄損罪は、不特定又は多数に知れ渡る可能性がある公の場で、具体的な事実を挙げて、人の社会的評価を低下させる危険を生じさせた場合に成立する犯罪をいいます。

裁判では、

大学教授が准教授に対して、助手や業者などがいる前で、准教授が実験室のカギを隠匿していることを摘示した行為(金沢地判平成29年3月30日)

などを名誉毀損罪とした事例があります。

侮辱罪

侮辱罪とは、事実を摘示せずに、公然と侮辱した場合に成立する犯罪をいいます。

裁判では、

社長が社員に対して、様々なパワハラを行うなかで、ほとんど全文をひらがなで記載し、一日の業務をあげて「できるかな?」「ちゃんとみようね」などと子供相手のような文面で、ある指示書を交付した行為が、上司の立場を利用したパワハラにあたり、幼児扱いしたことは酷く侮辱した行為(東京地判平成28年12月20日)

などを侮辱罪とした事例があります。

まとめ

労働施策総合推進法の改正により、パワハラ行為の防止対策が企業に義務付けられましたが、「パワハラ行為自体を規制し、犯罪とする」ことまでは定められませんでした。

ですが、被害者をおとしめ、傷つける行為は、これまで見てきたように、内容によっては犯罪に該当します。

パワハラ行為者は、自分はいつも正しい行動をしていると考えているので、犯罪行為をしているとはまったく思っていません。

「あなた犯罪者になる可能性がありますよ」と勇気をもってパワハラ行為者に伝えることも考えてみてください。

自分の身勝手で、他人をおとしめ、被害者の人生を不幸にするパワハラ行為者は絶対に許してはなりません。

もし訴訟になった場合も想定して、すでに体調不良をおこしているのであれば、診断書やカルテを病院で入手してください。

そして、日頃から音声録音やメール、書面などの証拠を取るようにしてください。

パワハラ行為を受けた時の、日時、内容などを5W1Hで詳しくメモを取っていきましょう。そして、協力者がいるのであれば、その人にもメモを取ってもらえるようお願いしてください。

ご自身の大切な人生・時間をパワハラ行為者なんかに奪われてはなりません。