日々パワハラの相談を受けていると「社内窓口に相談することができない」と言う人がおられます。

その理由としては

「加害者が怖いから」

「さらにパワハラがひどくなる」

「報復される」

「会社にいづらくなる」

などがあげられます。

一言でまとめるなら「相談した自分が不利益をこうむることになる」と思うからです。

でも、何もしないでいると現状は変わらないし、パワハラがエスカレートしていく傾向もあります。

相談者の皆さんはそれも十分わかっておられますが、それでも動けないのです。

では一体どうしていけばいいのか。

今回はパワハラ被害者の方が窓口や周囲に相談するためにどうすればいいのかについてお伝えしていきます。

パワハラ被害者はなぜ窓口に相談できないのか

冒頭でも書きましたが、相談できない理由はパワハラ問題を解決しようと窓口に相談することによって「加害者から報復されるのではないか」という不安や恐怖が一番大きいと思います。

今でさえパワハラがひどくて辛いのに、さらにひどくなったらもう耐えられない。

「会社を辞めざるを得なくなる」

「仕事を失ったら生活が成り立たなくなる」

など、恐怖や不安が次々とわいてくるのではないでしょうか。

確かに問題解決に動いた場合、加害者から報復を受ける可能性はゼロではありません。

窓口や上役に相談しても、その相談した結果が加害者に伝わり相手の怒りを買って、さらにパワハラがひどくなることがあるかもしれません。

でも、パワハラをそのまま放置しておくと、エスカレートしていく傾向が強いですから、こちらのリスクのほうが高くなります。

なぜなら、パワハラ加害者は自分の言動を誰にも注意されることがなく、被害者からも何も言ってこないとなれば、次第に増長していくからです。

増長すればするほど、 誰にも抑えられなくなります。

でも、そもそも会社には安全配慮義務があります。

労働契約法という法律には、次のように書かれています。

使用者は、労働契約に伴い労働者がその生命、身体等の安全を

 

確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする

条文の中にある「身体等の安全を確保」の中にはパワハラ防止も当然含まれます。

だから、会社は従業員が適切な環境で仕事ができるように管理していかなければならないのです。

会社に伝えなければ問題は解決できない

パワハラ被害を受けているときや、パワハラされている同僚を見たとき、会社に対し問題となる社員がいることをはっきりと伝える必要があります。

はっきりと伝えなければ、会社も窓口の担当者も絶対に動かないからです。

なぜなら、被害の声が上がってこなければ、会社側は「うちの会社にはパワハラはない」と受け止めます。

仮に窓口担当者の耳にパワハラ被害のうわさが届いても、被害者から直接声が上がらなければ、担当者は自ら積極的にヒヤリングしようとはしません。

担当者は自分の仕事があり窓口専任ではないため、実害が出ていなければ後回しにするからです。

それに被害を受けても我慢し続けているということは、被害者はそれほど深刻に受け止めていないと解釈されてしまう恐れもあります。

報復されたくないから「誰か他の人が会社に報告してくれて、解決に向かうかもしれない」と期待する気持ちがあるかもしれません。

ですが、もし逆の立場で、あなたが被害を受けている従業員を見たら会社に報告するでしょうか?

直接関係ないから様子をみておこうと思いませんか。

だからその期待は、なかなか実現しないと思ったほうがいいです。

そして、パワハラ問題を解決するにあたっては証拠が何よりも重要です。

会社にパワハラを報告したとき、会社はパワハラの事実関係を確認することになります。

その際、被害者周辺の社員にパワハラがあったかどうか聞き取ることもあるでしょう。

上司のパワハラ言動のあと、何日も経ってからの聞き取りでは、聴取される側も記憶に残っていなかったり、曖昧な表現になったりして立証が難しくなります。

もちろん、ICレコーダーやメモで記録に残しておくことも大切なのですが、適宜報告することで会社を動かし改善を求める必要があるのです。

会社に報告したい、でもやっぱり怖い

「会社に報告することで何とか問題解決を図りたいと思うけれど、それでもやっぱり加害者からの報復が怖い」と思われるかもしれません。

さらにパワハラの言動が強くなって「結局は自分が損するだけなのではないか」と思われる気持ちも分かります。

でも、 加害者は本当にさらなる報復行動をしてくるでしょうか?

会社に報告した時点で会社はこの加害者に聞き取り調査をするはずです。

パワハラ問題を会社側が把握しているということは、加害者にも十分伝わっているわけです。

それが分かった上でさらなるパワハラ行動をしてくるのであれば、さらに、その証拠をきっちりと押さえることで、会社側に明確な処分を求めることができるようになります。

パワハラ防止法が施行されたことによって 、パワハラ加害者は会社の就業規則に基づく懲戒処分の対象になりますし、パワハラ行為の内容によっては犯罪者として罰せられる可能性も出てきます。

もし仮にパワハラ上司が報復行動に出るとすれば、周囲に隠れて嫌がらせしてくるケースでしょう。

これも同様に証拠をきっちりと押さえて、会社に報告します。
会社を敵に回すのではなく味方につけて、あくまで加害者を敵として行動していきます。

パワハラする人は「自分がパワハラ行為をしており、被害者を傷つけている」ことがまったく理解できていません。

だから、会社に根気強く報告し、本人に対してパワハラしてはいけないことを知らしめる必要があります。

報告することで会社にいられなくなる

Business hands joined together teamwork

「会社窓口に報告することで、誰が報告したのか犯人探しが始まるから相談できない」と、ある相談者の方が言われていました。

「加害者が誰かはみんなわかっている。でもその人は能力があって仕事ができるから、相談しても会社は処分しないだろう、だから、誰が報告したのかに社内注目が集まり、結果として会社にいづらくなってしまう」

こういう理由があって動けなくなるとのことでした。

先ほど、会社は安全配慮義務があるとお伝えしました。

それに加えて、パワハラ防止法には「会社は相談者に不利益なことをしてはならない」と定められていますから、相談者を守らなければならないのです。

普通の会社であれば法律に従って相談者を守り、しっかりとした対応をするのでしょうが、そうでない会社も中にはあります。

もし「自分の会社はそうした対応をすることができない」と判断するのであれば、一旦立ち止まって、今の会社にとどまるべきなのかどうかを考える必要もあると思います。

それでもやっぱり今の会社にいたいと思われるのであれば、周囲の信頼できる人や外部の専門家と相談しながら、解決策を探っていくしかありません。

会社の組織風土や相談体制、社員間の関係性など、会社によって様々なので、決まった解決方法があるわけではありませんが、相談を重ねていくことで、どのような解決プロセスがよいのか見えてきます。

まとめ

パワハラ防止法が施行されたこともあり、パワハラ問題は社会的にも大きな話題になっていますが、防止に向けて動いているのはまだ一部の会社ではないでしょうか。

ある大手の家電メーカーでは、パワハラでの事件が何度も繰り返され、その都度大きく報道されていますが、防止体制が改善されているとは思えません。

中小企業はこれからですが、動きはかなり鈍いと思います。

なぜなら、パワハラ防止は「直接売上や利益に結びつかないから後回しでいい」と考える経営者が多いからです。

本当は、従業員が安心して働くことのできる環境をつくり、心理的な安全性を高められれば、従業員のパフォーマンスも上がるし、それに応じて会社の利益も上がっていくのですが、そこに注力できないのです。

仮に売上が上がっていてもパワハラが横行し、それを止めようとしない社内体制であれば人材が流出し、早晩行き詰まる日がきます。

相談しても決して動こうとしない会社に今後も残るのか、自分の能力を上げて別の環境で仕事をしていくのかも考えていくべきです。

そして、残ると決意したのであれば、この問題を解決していくためにどんな行動ができるのか、まずは思いつくことを紙に書き出してみましょう。

「友人の◯◯さんに相談してみる」

「同じ被害を受けている〇〇さんと話をしてみる」

それが、解決に向けての第一歩になりますから。